2020-12-17
〜プロローグ〜
これまで自分たちが造っている松の司というお酒について、そこに貫通する“味わい”や“松の司らしさ”といったものを肌感覚で分かってはいても、あまりはっきりとした言葉で表現して来れなかったように思います。
それらを完全無欠の言葉で表現するのは難しいですし、おそらく不可能だとは思うのですが、松の司というお酒を構成するいくつかの要素を深く掘り下げることで、そこに宿る輪郭や独特の空気感をお伝え出来るのではないか?そんな思いからスタートした『○○から考える松の司』。
前回の『水』に続き今回は『土』について掘り下げるべく、「土壌別仕込シリーズ」を軸に当蔵の石田杜氏へのインタビューを行いました。その模様を5話に渡りお届けします。どうぞお楽しみください。
ブルーの手応え
ーー昨年度の造りでブルー(=純米大吟醸 竜王山田錦)の土壌別仕込も3年目になりましたが手応えはいかがですか?
石田
手応えは想像以上。
ーーおぉ。元々そのお酒の仕上がりについて思い描いてた範囲以上というかこんな感じになるかっていう。
石田
あっ、出来について?
ーーまずは、はい。
石田
酒の出来については特別なことも無いし、どれかに手一杯手をかけてってわけでも無いやん。連続性の中で出来ていく・・・、やから出来についてはその年々の範囲でちゃんと満足出来る範囲かな。
やけど、1個1個の土壌ごとに分けて仕込んだ時の差っていうのは、まぁ知ってるやん。自分自身は。それは想像出来るんやけど。それを世の中に出しても良いんかなってタイミングやから出したんやけど、それを面白がってくれる人が増えたってことについては・・・。
ーー想像以上。
石田
うん。そう。
ーーもっと反響は低いかなって思ってました?
石田
じゃないかなって思ってたよ。だって金沢酵母を18(=きょうかい18号酵母)に変えたら誰でも分かるやん。フレーバーが変わるっていうのは。だからよく米違いとか田んぼ違いするのに酵母変えちゃうわけやけど、それはしたく無かったし。
松瀬酒造 杜氏 / 石田 敬三
曖昧なことを差として楽しむ
石田
(土壌別仕込は)ワインのブドウの品種が違うのとは違ってフレーバーが違うわけじゃ無いから。どっちかっていうと舌触りとかテクスチャーの違いやし、そのテクスチャーって“肌触り”みたいなのと一緒やから・・・。
ーー分かり難くて曖昧といえば曖昧ですかね。
石田
そう。曖昧なことを楽しむとか、それを差として捉えて話題の中に取り込むような状況があるんか?っていうのはあったけど。自分もワインのお陰やと思うんやけど、日本酒飲む人でもそういう風に捉えてくれるようになったってことじゃないかな。
ーーはい。
石田
前はもっと、生かどうか?生原酒かどうか?吟醸かどうか?とか・・・。
ーーええ。味が重い軽い、甘い辛い、分かりやすい味覚の中の話しですよね。
石田
そういう意味ではいろんなテクニック的、製法的な商品の差別化みたいなんが飽和しちゃったから、自分たちが本質やと思ってる米のこととか、地酒にとって本当のローカリティーっていう方に目が向いてて。そこに自分らがものを出せる状況にあるから、どうかなって思ってやてみたら、ちゃんと反応してもらえた。
ーー日本酒の市場として大分成熟してきてるってことですよね。
石田
そうそう。だからむしろその(=酒の)出来について飛び切り良くてもアカンと思ってるんやわ。ブルーに関しては。極端に言うと「これ何で出来たんかなぁ?」みたいな・・・。
ものによってはさ、個人的にきき酒向きやとか、分かりやすくて良いなぁとか思うやん。思うけどそれがブルーに出て来てもうたら本意じゃないよね、やっぱ。
微細だけど変わりようのないこと
ーーコントロールし過ぎない方が良いってことですか?
石田
えーっと、別に普通の出来で、山田錦の出自が普通に表に出て来てくれんと困るやん。
ーーあぁ、はい。
石田
酒のその出来そのものがウンと抜け出ちゃったりインパクトあるようなものになると。もう、すぐ消えてしまうくらいデリケートであるか無いかわからんようなもんやからなぁ、そもそも。
ーーこの土壌別仕込でやろうとしてるテクスチャーの違いっていうのがですよね。
石田
そうそうそう。
ーーそうなるとあまり印象やアタックの強いものでは逆にダメですね。
石田
そう。そういうコンセプトは楽(=純米吟醸 楽)とかも一緒やけど。
ただブルーに関しては土壌の微細なところを・・・、微細やけど絶対に変わりようの無いことやん。小っちゃいことやけど、ずーっとこれをやり続けたら自分らが仕事辞めたり出来んくなったとしても、何も変わらんと(そこに)あることやん。
ーーはい。
石田
お地蔵さんがそこに居るみたいに。
そやから1年だけポコッと出来るようなもんは実は別に凄く無いけど、ずーっと差が無いことやけど差があって変わらへんもんて強いから。それを素直に出す(=表現する)ことがコンセプトの酒やから。むしろ普通の仕込みで普通に仕上げて・・・。そりゃしくじりたくは無いけど(笑)
個性の仕立て
ーーこれまで土壌ごとに造り方(=酵母、醪管理など)を全く変えずにその差を見る方向でやって来たじゃないですか。もうちょっとそれぞれの個性が表に出やすいように仕込み方を変えてあげる方向もあるかと思うんですが。
石田
あぁー、そうしたら良いタイミングはもちろんあるんやろうけど、まだもうちょっと全部揃えてやってみようかなって気はするなぁ。この間の『水』の話しと一緒で元ある姿にどう仕立ててあげるかやん。
ーーはい。
石田
土壌をあるべき姿で、その・・・最大限にしてあげることについては間違え無いやん。
細身の米には細身で、ガッチリとストラクチャーのある米にはもっと大きな肉付きをあげた方が良い姿があるかもしらんけど・・・、今はどっちかっていうと細身の人にも体格大きい人にも同じ制服を着せてみて「右の人と左の人違うね」って。
個性っていうことから言うと、自分らのポリシーの範囲内やったら、お約束として金沢酵母で麹の造りはこのくらい、醪の経過はこのくらいっていう・・・、それをちょっとずつ触ってあげて良いプロポーションに合うのが見付かればなぁ。
ーーうーん。
石田
どうしようかなぁと思うところもあったけど、まだ見えてへんて言うのもあって。
石田
逆かもしらんしなぁ、山中(地区)みたいに細身の砂地の山田錦にフワッとしたんが良いかもしらんし・・・、駕輿丁(地区)みたいに元々ギュッと詰まったやつにもっとタイトにしたんが密度感持って無駄なもん削いで出来るかもしらんし。
ーー筋肉質の人がパッツパツのTシャツ着て身体のライン見せるような感じですね。
石田
そう、そうねん。だからそんなんて何かさ、「こうや!」て思ってやってもアレやから、何となくしようかなと思える時を待ってるって言うか・・・。もしちょっとでも思うところがあったらしてるやん、きっと。
ーーえぇ。素直に見ていきながら、良い仕立ての取っ掛かりが見えたらですね。
<つづきます>
カテゴリー:土から考える松の司