2020-12-16
『松の司のきき酒部屋』ではサケ・ディプロマ(J.S.A. SAKE DIPLOMA)取得の2人の蔵人が松の司のいろいろな商品をきき酒し、その感想をお届けします。
*サケ・ディプロマとはJ.S.A.(日本ソムリエ協会)が認定試験を行う日本酒に特化した資格認定制度です。
第7回目となる今回は、ついに松の司レギュラーラインナップの最高峰『松の司 純米大吟醸 黒』の登場です。丁寧な原料処理と小さなタンクでの繊細な醪(もろみ)の発酵管理など、心を尽くして仕込む『黒』。前回の『陶酔』と同じハイクラスの純米大吟醸ではありますが、一体どう違うのか?
今回もいつもの2人に加え、松瀬酒造の次代を担う松瀬 弘佳くんと共に三つ巴のきき酒です。『前編』『後編』に分けてたっぷりと『黒』の魅力をお届けします。
良い酒の予感
ーー今回の『黒』は現行商品のH30BYになります。1年の熟成を経たその香りはいかがでしょうか?
圭太
熟香はするね。嫌味じゃ無く。
弘佳
上品な感じしますね。
雄作
そうやね。カプロン酸(=カプロン産エチル、リンゴの香りに形容される吟醸香の一つ)か分からんけど、甘い果物・・・桃とか、リンゴとか、あぁいう匂い。
圭太
カプロン酸系になるんかなぁ?果実味、熟香、若干のアルコール感。
雄作
炊いた米とかミルクとかっていうよりも果物。
圭太
そやなぁ。吟醸香らしいピュアな匂いって感じがするな。
雄作
熟成の匂いもするけど、爽やかでスッキリするところもあるし。
圭太
雑な香りがせえへんし、透明感があるね。
弘佳
鼻抜けがすごく良いですよね。
圭太
良い酒の予感がする・・・(笑)
『松の司 純米大吟醸 黒』酒米は兵庫県(特A地区)産の東条山田錦のみを精米歩合35%で使用。酵母は熊本系を主体に数種ブレンド。
派手さは無い
ーーこれまでの商品で多かった香りは酢酸イソアミル(=バナナやメロンの香りに形容される吟醸香の一つ)でしたが、何か分かりやすい系統の香りはありますか?大吟醸らしさとか?
雄作
カプロン酸みたいなのは控えめやけど、僕は何となく感じるかなぁ。
圭太
華やかな香りっていうよりは落ち着いた香りで。もう少し温度が上がるとイソ(=酢酸イソアミル)っぽい感じも出て来るかな?
雄作
スカッとしたイソの感じよりは、もうちょっとおだやかで丸くって。
圭太
大吟、大吟してないっていうか・・・。
弘佳
派手さは無いですよね・・・。
雄作
うん。派手では無い。意図してないっていうのもあるやろうし。熟成してるからってカラメルみたいな香りもせえへんし。そこにちょっとアルコール感がある感じですかね。
ーー圭太さんが始めに言った“熟香”っていうのもカラメルやドライフルーツのような一般的な熟成香では無い?
圭太
そう。フレッシュな香りっていうよりは落ち着いたっていう。いわゆる熟成香では無くてちょっとこなれた匂い。
雄作
老香(ひねか)とか熟成香では無いんですよね。
圭太
うん。そこじゃ無いところでのこなれた感じ。
何か突出した分かりやすい香りは無いようです。そして派手さは無いけれど、丸く落ち着いた果物のような香りが、雑味なく透明感や上品さを感じさせるようで、味わいへの期待値が静かに高まります。
蜜と透明感
ーーそれでは味わいについてはいかがでしょう?
雄作
味の方が熟成してる感じがするかな。若干、粘度とまではいかないけど、舌の上に乗る蜜っぽい感じがする。
圭太
甘みが強いよね。それが蜜っぽいニュアンスになるんかな。確かにトロミみたいな感じも。
弘佳
ちょっとリースリングみたいな感じも・・・。
雄作
もうちょっと酸があっても良さそうやけど、割と酸は低い感じがしますね。なめらかで丸くって。
弘佳
思った以上に華やかでは無いというか、落ち着き払った感じがします。
雄作
そうやなぁ。透明感あるけど味自体は、こう、ポタッというかそれこそ蜜っぽいニュアンスがあって、でもしつこく無くキレがある。
圭太
そうやな。キレがある・・・甘いのにしつこく無い感じ。けどトロミって表現しちゃうと反対の印象になるから、あれなんやけど、トロミっぽい味わいなんやけどスカッとしてるっていうか、“入り”と“出”の時の感覚が違うっていうか・・・。
雄作
熟成してるから丸みがあるけど、米を削ってる(=高精白、精米歩合35%)から透明感が出てるんじゃないかな。
ーーなるほど。
味は多く無いのに複雑
雄作
あとはウチの水っぽさかな。ミネラル感みたいな。
圭太
うん。後口の方で・・・さっきも言ったけど入りとの雰囲気が違うっていう感じがすごくある。
弘佳
鉱物っぽいの思いますよね。
圭太・雄作
うん、うん。
圭太
最後鼻に抜ける感じに軽い渋味のニュアンスも。
弘佳
でもそれがスパイスっていうか、飲み飽きなさにつながる感じがするんですけどねぇ。
圭太
香りもそうやけど、味も落ち着きがあるよね。華やかっていうよりか凛としてる。
弘佳
品があるっていうか、風格があるっていうか。何て言ったら良いのか分からないんですけど、フラッグシップ感みたいな・・・。
左:築山 雄作 / 33歳、蔵人歴7年、2018年 J.S.A. SAKE DIPLOMA取得
右:松瀬 弘佳 / 24歳、次代の蔵元となるべく酒造りに限らず目下勉強中。
雄作
そう。味は多く無いんやけど、複雑さがあるからかなぁ・・・酒自体の。透明感だけでも無いし、華やかだけでも無いし。
ーーそこですかね、品とか奥行きを感じさせるのは。
雄作
うん。味の構成が多いから複雑なんかって言ったら、またそういう複雑さじゃ無い。
圭太
うん。確かになぁ。
雄作
大吟っぽい上品さ、繊細さがある。分かりやすさは無いけど、飲みごたえっていうか。
松瀬 圭太 / 37歳、蔵人歴12年、2019年 J.S.A. SAKE DIPLOMA取得
矛盾してるものが一緒にある
ーー玄人感が強い印象になりますかね?
弘佳
いや、取っ掛かり難さは無いですね。結構受け入れられやすさはある感じがします。
雄作
何か矛盾してるもんが一緒にあるみたいな・・・。蜜みたいな粘度もあるって言いながら、大吟らしいキレの良さもあるし。
圭太
味幅があるような感じやのに、こう、クリアっていう。
雄作
言ってることが矛盾してるみたいに聞こえるけど、それが酒で体現されてるっていう・・・。
圭太
そう、そう、そう。何か不思議な感じ。
雄作
飲んでて派手じゃ無いって言うてても、口に入れたら甘いし広がりも感じるし。
圭太
しかもしつこく無いし、ネバつかへんし。でもチグハグとは違う。
弘佳
バランス良いですよねぇ。
雄作
うん。やっぱり味の構成が多くない複雑さ。陶酔とはまた全然違う感じしますね。酵母構成は近いはずやのに。飲まんと分からん感じ(笑)
圭太・弘佳
うん、うん(笑)
ーーとても良い高級感のように感じますね。
味わいについての話がまとまって来たところで、今回はお開きです。華やかでキャッチーな、いわゆる“大吟醸”という印象とは全く異なる『黒』の味わい。香りもそうでしたが、とてもおだやかで落ち着いた中に、いくつかの相反するような味わいのストーリーが折り重なり、繊細な複雑さと風格を感じさせる逸品のようです。「飲まんと分からん感じ」とはまさにそうなのでしょう。
さて次回後編では、『黒』に合わせたい料理について模索していきます。是非、お楽しみください。
商品紹介:
『松の司 純米大吟醸 黒』
1.8L オープン価格(希望小売価格 9,000円税別)*専用箱入り
720ml オープン価格(希望小売価格 4,500円税別)*専用箱入り
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カテゴリー:松の司のきき酒部屋